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クライミングの厳しい局面でこそ、スタンス間の重心移動で生まれる推進力が重要な理由

リラックスして登っている時に出来ていることが、最もパフォーマンスを発揮しないといけない厳しいセクションで出来ていないなんて事は結構あります。

自分の登りを動画などで撮影して観察していると、重心移動で生まれる推進力を活かす動作がまったくできていない事に気が付きました。難しい局面だからこそ使える力を総動員したいのに、この力を使えていないのはもったいないと感じたことがきっかけで登る時の意識が変わりました。

この記事では、クライミングの厳しい局面でムーブを起こす際、スタンス間の重心移動で生まれる推進力を活用する意識とその重要性について書いていきます。

ライター:諦めない男 つるぎ

結論

右足から左足、左足から右足への重心移動で生まれる勢いを利用して次のホールドを効率良く取りにいく動作は、簡単な課題であれば、ほとんどの方が自然と出来ています。しかし、核心部など高いパフォーマンスを発揮しないと突破できない場面では、この動作が当たり前のように出来ないだけでなく、普段から意識していない事なので、この動作が失われている事に気付き難いようです。

難しい局面で重心移動の推進力を活用した登りをするために、理解して目指すべき内容は次の3つです。

  • 止まる必要のないところでは止まらない
  • 初動では重心移動の勢いを利用する
  • フリーズ反応下でも変わらぬ動作

それぞれについて詳しく書いていきます。

止まる必要のないところでは止まらない

感覚的には解りにくいかもしれませんが、止まる・動き出す、これらの動作は筋肉に余計な負担をかけて疲労を早めます。例えば、1歩進んで止まる、1歩進んで止まる、この動作を繰り返すことは、止まらずに歩くよりも疲れるというのは誰もがイメージできると思います。

止まることで失うものは主に次の2つだと思っています。

  • 筋肉の特性を活用した登りが出来なくなる
  • 推進力を失う

簡単に登れるセクションでも止まって動き出す動作が積み重なると疲れますし、難しいセクションになれば尚更です。核心部などギリギリの場面では、そのムーブが出来るか出来ないかに直結することも多いです。

それぞれ解説していきます。

筋肉の特性を活用した登りが出来なくなる

筋肉はよくゴムに例えられます。例えば、関節を曲げた場合、縮む筋肉があります。筋肉が縮むと次は伸びようとする力が生まれます。伸びた筋肉は逆に縮もうとする力が生まれます。体を動かすということは、常にどこかの筋肉が伸び縮みしているということなので、動き続けることでこの筋肉の特性を有効活用した登りが出来るようになります。

ただ、この特性を活用する上で知っておきたいことがあります。それは、曲げたらすぐに伸ばす、伸ばしたらすぐに曲げる、というように逆の動作をすぐにする事で効率良くこの力を使うことが出来るということです。また、曲げる速度が速ければそれに比例して伸ばそうとする動作にも勢いがでます。逆に動きを止めてしまうと伸び縮みする力は半減したり無くなってしまいます。これらの特性を踏まえて、ムーブを組み立てていく必要があります。

例えば、しゃがんで立ち上がる、この動作はクライミングでよく出てきますが、しゃがんだだ状態で5秒止まってから立ち上がるのと、しゃがんですぐ立ち上がるのでは明らかな違いを感じることができると思います。止まることで、このような現象が全身の筋肉で起こっているのです。

推進力を失う

一度動きだすと勢いが生まれます。この勢いをできるだけ止めないように登ることは、省エネ登りに繋がります。自分で作った推進力を最大限活用するイメージです。やさしいグレードでは実感しにくいと思いますが、自分にとって突破できるかわからない限界グレードや、ギリギリの状態に追い込まれた時に、ほんの少しの推進力がその1手を成功させるかどうかに大きく関わってきます。

初動では重心移動の勢いを利用する

特にリードクライミングでは、クリップやレストなど、止まるポイントは必ずあると思います。その後、動き出す際に右足から左足、左足から右足、どちらかのパターンで左右のスタンス間で重心移動を行い推進力を作ります。このテクニックは左右に重心移動が出来る多くの場面で有効です。

左右のスタンス位置を同じぐらいの高さに決めることが出来れば傾斜角度に関係なく重心移動も容易にできますので、推進力も簡単に作ることができます。

上へ登るのになぜ左右に向かって推進力を作るのかと思われる方もいるかもしれませんが、特にかぶりがキツイ場面では、真っ向から上方向への推進力を作ろうとすると大きなパワーが必要になります。しかし、左右(横方向)のスタンス間での重心移動はほとんどの場面で簡単に行うことができます。その横方向に発生した推進力を保持手を中心に半円を描くように上や斜め上方向など進みたい方向への勢いに変えることで、エネルギーのロスを押さえた登りが出来ます。

フリーズ反応下でも変わらぬ動作

クライマーにとって厳しいセクションに差し掛かると、緊張感が出て、体の動きが硬くなっていきます。このようなフリーズ反応が出る場面では、リラックスして登っている時に出来ていることが、無意識に出来なくなってしまうことがよくあります。

課題の難しさや、力を発揮することにばかり意識が行き勝ちですが、効率良く登るためのポイントは難しいセクションでも優しいセクションでも大きくは変わらないことが多いです。ホールドが小さくて持ちにくい、スタンスが悪くて信じられず上半身に力が入って肩が上がってしまうなど、フリーズ反応は生理現象なので仕方ないですが、そんな時こそ冷静に基本に立ち返った登りをすることがその時点での最大のパフォーマンスを発揮する方法だと思っています。

フリーズ反応とは、
人間が強い恐怖や脅威を感じた際に起こる自然な防衛反応です。交感神経系が活性化し、心拍数や呼吸数の上昇、筋肉の緊張などが起こります。この状態では、思考力や判断力が低下し、本来の動きができなくなる傾向があります。

まとめ

右足から左足、左足から右足、スタンス間で重心を移すことで生まれる推進力を活用することで、次のホールドを楽に取りにいくことが出来ます。また、動きの流れを出来るだけ止めないでムーブを繋げていくことも省エネ登りに繋がります。

核心部などの厳しい状況でこそ、ほんのわずかでも推進力を利用出来ているかが、明暗を分けることになります。進みたい方向とは逆方向へ一度重心を移してから、軸となるスタンスに重心を乗せて勢いを出し、ムーブを起こしていくことが基本になると思っています。また、このテクニックはスタンス位置を上げたい場合にも有効です。

どんな状況でもムーブの一部として無意識レベルで出来るよう、いろいろなバリエーションと共に練習して身に付けておきたい内容です。

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