クライミングを続けていくと、どこかで最高グレードを更新できなくなります。もっと登れるようになりたいと思って活動を続けているけどなかなか成果が出ない、そんな現状に陥っていませんか?
クライミング力を鍛えるために、以下の事を意識して取り組まれている方は多い印象です。
- 最 大 筋 力
- 持 久 力
- ム ー ブ 力
- レ ス ト 技 術
- オ ブ ザ ベ ー シ ョ ン 能 力
- 柔 軟 性
これだけだと、最も重要な要素の1つが足りていません。それは心肺機能です。心肺機能を鍛えるとクライマーの成長の伸びしろもそれに比例して向上します。私は心肺機能を鍛えて、最大酸素摂取量を上げたことで、高強度時の持久力と保持力が格段に向上しました。そして、念願の5.12c のオンサイトを達成することが出来ました。
要点は、心肺機能全般とその機能の一つである最大酸素摂取量の向上を意識して取り組む事で、登っている時の持久力・回復力・保持力が向上することに加えて、普段の練習で積み上げられる自力の限界ラインが上がるということです。
この記事では、最大酸素摂取量をテーマに心肺機能を向上させる方法と、私が実際に取り組んだ内容、考え方などを書いていきます。
ライター:諦めない男 つるぎ
結 論
クライミングの成長に限界を感じた時、心肺機能を鍛えることでクライミング時の持久力・回復力・保持力に加えて、フィジカルのポテンシャルが上がる可能性があります。そして、より高強度の課題やルートを完登するためには、最大酸素摂取量を上げることが重要です。
最大酸素摂取量を効率よく向上させるために、以下の①と②のトレーニングを組み合わせて行っています。運動の種類は何でもよいですが、RUN(走る)か自転車で行うのが一般的です。
トレーニング ①
内容:1分~3分の高強度インターバルトレーニングを行う。
頻度:週2~3回実施する。
備考:目的の強度を達成できないので連日は行わない。
<メニュー例>
① 2分間、ぎりぎり継続できる全力運動
② 1分間、休憩(歩くなど軽度な運動)
③ ①と②を1セットとして、5セット繰り返す
トレーニング ②
内容:30分~60分の中強度持久力トレーニングを行う。
頻度:週2~3回実施する。
備考:
・運動中は、できるだけ止まらない環境で実施する。
・心拍計が必要。(感覚でも出来なくはない)
<メニュー例>
45分間、最大心拍数の75%程度を維持して運動する。
適度に休養日を挟みながら、1週間トレーニング日を4~5日設定して、これを1~2ヶ月程度続けれることが出来れば最大酸素摂取量が上がり、登っている時に明らかな変化を感じることができると思います。(但し、練習強度が低いと十分な効果が出ません。特にトレーニング①については自分に厳しく取り組む強い意志が必要です)
解 説
結論に対して詳しく解説していきます。
トレーニングの内容については、私が実践した自転車での取り組みを例に解説していますので、参考にしていただければと思います。
クライマーの限界とは?
クライマーの限界についての私の考えは、心肺能力と肉体の強さ、このどちらか弱い方がネックとなり、その時点での限界を作っているイメージを持っています。
例えば、自身の限界グレードの課題やルートにトライし続けたとして、最高到達点が変わらない状況になった場合、弱いのは心肺能力だと判断します。(正しい姿勢、理にかなったムーブで登れているという前提ですが)
筋肉が成長したり、順応するためには、筋肉が限界まで追い込まれないといけません、心肺能力が低く、血液や酸素を身体の必要な場所へ送り届ける能力が不足しているために、筋肉が動けなくなり限界がきている場合、いくら根性のトライを続けたところで成長出来ないからです。
また、ロードバイクでのトレーニングを経験した結果、クライミングは心肺を鍛えることには向いていないと思いました。そんな経緯で、心肺機能を鍛えるのに適したサブトレーニングも継続して取り組んでいます。
心肺機能を上げる目的とは?
心肺機能を上げる目的は大きく4つあると思います。
持久力向上
心肺機能が向上すると、長時間登り続けられるようになり、スタミナ切れを防ぐことができます。私の経験では、高強度でも通用する持久力・回復力が上がったことが大きかったです。また、負荷をかけられる時間が長くなるので、筋肉が鍛えられ成長効率が高まると考えられます。
回復力向上
心肺機能が向上すると、疲労から回復する時間が短くなります。登ってる際のレストで腕をシェイクする間、細かく言えばホールドからホールドへ手を出す間に回復しますので、クライミングにおける持久力アップにも繋がります。また、疲労が早く回復するということは、練習がたくさんできるようになりますので、成長効率が高まると考えられます。
パワー向上
心肺機能が向上すると、筋肉に効率的に酸素を供給できるようになり、より強いパワーを発揮できるようになると言われています。ボルダリングやダイナミックなムーブが必要なクライミングにおいても有効です。
集中力向上
心肺機能が向上すると、脳への酸素供給も改善されると考えられます。これは、集中力を維持し、正確な判断を下すために重要です。
最大酸素摂取量とは?
1分間に体内に取り込める最大の酸素量の事です。VO2MAX(ブイオーツーマックス)とも表記されます。取り込める量が多くなるとクライミング時の高強度に通用する持久力・回復力・保持力のアップに繋がります。
最大酸素摂取量向上の目安は?
最大酸素摂取量が向上すると、安静時心拍が下がっていきます。起床後、起き上がらずに1分間の心拍数を計ります。それが安静時心拍数です。60~80回が一般的な数値です。トレーニングを続けていると60を下回るようになってきて、健康診断などで徐脈やスポーツ心臓と診断されるようになります。ちなみに、持久力を最も要求されるマラソンのトップのランナーやサイクリストは30台と言われています。
トレーニング ① について
いわゆる、高強度インターバルトレーニングです。短い時間ですが、高い強度の運動と休息を交互に行うトレーニング方法で、効率良く最大酸素摂取量を向上させる効果があるとされています。
正直、めちゃくちゃキツイです。顔が歪んでるんじゃないかと思うほどです。実施場所は、交通量や人気の少ない登り坂で安全に配慮して行ってください。また、かなりの高強度トレーニングになりますので、トレーニング前のウォームアップとトレーニング後のクールダウンは最低でも10分ぐらいかけて適切に行ってください。
ちなみに自転車の競技選手などがこの手の練習をする際は、自宅でローラーを使って行うのが一般的のようです。スピードが出過ぎたり、追い込みすぎて倒れても危険がないようにだそうです。
短時間の全力運動
2分を測定しながら走ります。2分間ギリギリ走り切れる全力走のイメージです。正しい強度で走り終わったあとはフラフラで倒れそうになるぐらいまで追い込まれます。ただし、途中で止まってしまうなどはNGです。設定した時間を必要な強度でやり切ることが重要です。
インターバル
短時間の全力運動の後、1分を測定しながら軽くペダルをまわしつつ休憩します。この時完全に止まらないで、ゆっくり歩く程度の軽い運動を心がけます。坂道を下る場合はスピードが出過ぎないように安全第一で下ってください。
5セット行う
2分全力運動、1分休憩(インターバル)を1セットとして、これを5セット行います。慣れてきたらセット数を増やしていきます。
> 捕捉事項 <
運動時間は1~3分の間に設定し、休憩時間(インターバル)は運動時間と同じか、その半分に設定するのが一般的です。状況に合わせて設定してください。セット数も徐々に増やしていきましょう。本当にめちゃくちゃしんどいので、続けられることを優先して、無理をせず少しづつ慣れていく感じで取り組んで下さい。
トレーニング ② について
淡々と同一ペースで運動し続ける、長時間の持久力トレーニングです。トレーニング ①に比べると強烈なしんどさはないですが、長い時間心拍を一定に保って走り続けるワークアウトになります。
全般的な心肺機能が向上すると言われています。最大酸素摂取量だけをターゲットにしたトレーニングではありませんが、高強度インターバルトレーニングの効果を高めるために重要だと考えられており、組み合わせて取り組むのが一般的なようです。
以下がトレーニング ②で向上すると考えられています。
・全身持久力:長時間運動を続けられる体力を上げる
・心肺機能:心臓や肺の機能を強化し、酸素供給の効率を上げる
・エネルギー代謝:脂肪燃焼効率を高めて、運動中のエネルギーを安定供給
設定した運動時間は、止まらないで運動し続けられる環境で行う必要があります。止まる毎にトレーニング効果が落ちるという認識を持って取り組んで下さい。
心拍計を準備する
走りながら確認できるタイプの心拍計を準備します。自転車の場合は、胸や腕に巻くタイプの心拍センサーを装着し、表示画面となるサイクルコンピュータをハンドル部分に取り付けて、心拍数を表示させながら走ります。
最近流行のスマートウォッチなどでも良いですが、正確に測定できるものを選んでください。
最大心拍数を算出する
心拍数とは、1分間に心臓が打つ回数の事です。最大心拍数は自分の心臓が打てる最大の回数となります。この最大心拍数からトレーニング強度のターゲット値となる心拍数を算出します。
計算で出す場合は(220-年齢)となります。
例)40歳の場合 220-40=180
この場合、最大心拍数は180となります。
計算値と実際の数値は大きく違う場合も多いので、できれば実測するのがおすすめです。
測定する方法としては、RUNで100%の全力走をするなど、終わったあとしばらく動けないぐらいまで追い込めば最大心拍数が測定できると思います。この時もアップは十分に行ってから測定するようにしてください。
最大心拍数の70・75%・80%の値を算出する
トレーニング ②を行う時の運動強度の目安を算出します。計算方法は下記の通りです。
例)最大心拍数180の場合
180×0.7=126
180×0.75=135
180×0.8=144
この場合
最大心拍数の70%=126
最大心拍数の75%=135
最大心拍数の80%=144
となります。
この場合、トレーニング ② で目指す心拍数は135となります。ただ、上下することもありますので、振れ幅は126~144の間で推移するように運動します。
持久力トレーニング
最大心拍数の70~80%を維持するようにペースを調整して30分~60分を目標に走ります。ポイントは基本止まらない事です。実施場所は信号等止められる可能性が少なく、長時間走り続けられるところがベストです。こちらも最初は10~15分など短い時間で始めるのが良いと思います。徐々に時間を伸ばすように取り組みましょう。とにかく継続することが重要です。
クライミングxロードバイクは最高の組み合わせ
私は持久力が課題のクライマーでした。持久力向上に対しては、出来るだけ沢山登り込んで超回復に期待する、そんな活動を続けていました。中強度までの持久力はある程度つくものの、高強度で通用する持久力はあまり上がっている感覚はなく突破口が見つからない状況でした。
そこで新たに、サブトレーニングとしてロードバイクを始めました。ロードバイクは心肺機能を鍛える事において最高のツールだったので、通勤時間を有効活用しトレーニングする作戦に出ました。
RUNだと地面の衝撃から膝への負担が大きくなり易いですが、自転車の場合はペダルを踏んでも力は逃げますので、身体に優しい運動になります。正しくペダリングできていればという前提はありますが、身体への負担は最小で心肺を鍛えたり、減量するのに適しています。ですので、心肺で走るスポーツと言われます。
また、私の場合、ロードバイクで走ることはとても楽しく、どハマりしたことも、結果としてクライミング力を大きく伸ばすことに貢献しました。クライミングxロードバイクは相性がよく最高の組み合わせだと感じています。
まとめ
・クライミング力をアップさせるには心肺機能を向上さえることが重要
・心肺機能を効率よく上げる方法は確立されているのでその方法を実践する
・クライミングにおいて、特に持久力・回復力のアップは最大酸素摂取量の能力が鍵となる
学生時代にスポーツをしていましたが、心肺機能を効率よく上げる方法があるなんてまったく知りませんでした。ロードバイクの世界で当たり前となっているトレーニング理論はクライミングにも水平展開できる内容も多く、自分にとってすごく価値のあることでした。
限られた時間の中でどうすれば成長を続けられるのか?この答えがたくさん詰まっていました。限界突破のための参考にしてもらえると嬉しいです。
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