足を巧みに使いながら効率よく登っていくクライマーを見ていると、動作の1つ1つに無駄がなく、芸術性すら感じる様子に見とれてしまった事が何度かありました。
以前の私は、片足にしっかり乗り込んで、動きの中でタイミング良く次のホールドを取る事ができれば支点になる足の逆の足(以後、逆足)をしっかり決める必要はないと思っていました。足位置を探して決める時間がもったいない、その間に手が疲れるというのが理由でした。
逆足はバランスを取ったり、推進力を作るためにのみ使うものだという感覚でしたが、それは間違いだと気付きました。両足で適切なバランスになるようにスタンスをとらえ、しっかり土台を決めて、下半身全体が連携できている状態でムーブを起こすことで、体幹を通じて上半身も連動させることができ、保持力や持久力にも大きな影響を与えていることを感じられるようになってきました。
この記事では、私の経験を踏まえ、キネティックチェーンを発動させる8つの要点のうちの1つ、【両足でとらえる・決める】について書いていきます。
ライター:諦めない男 つるぎ
両足でとらえる・決める
体を連動させて持久力を備えた大きな力を発揮するためには土台となる下半身が安定している事が大前提になります。ホールドを取りにいく場面では、次の2つの観点が重要です。
- 両足が適切なスタンス位置をとらえて、体全体のバランスが取れている事
- ムーブを繰り出す土台となる下半身が安定する体勢を決められている事
土台がしっかりしていることで、持久力のある力強いムーブを繰り出すことができます。
それぞれ解説していきます。
次のホールドを取りにいくための下半身の体勢 2つの観点
両足が適切なスタンス位置をとらえて、体全体のバランスが取れている事
これから起こそうとしているムーブを効率良く成功させるために、そのムーブ動作を踏まえたバランスの取れる位置に両足のスタンスを決めます。
一般的なクライミングジムではスタンス位置の選択肢は少ないですが、ホールドの右端におくのか左端におくのかなど、数センチ、時には数ミリずらすだけでも、出来なかったムーブが出来る事が多々あります。また、外岩や形状のついた人工壁などの場合であれば、スタンスの選択肢は増えると思います。小さな凹凸などであってもバランスが良ければ最良のスタンス位置となる場合があります。レッドポイントを目指す中で、徹底的に研究したことにより出来ないムーブが、出来るようになった経験は何度もしてきました。
どの位置に両足を置くかによって出来るムーブが決まり、その成功率も決まってきます。レッドポイントの限界グレードを上げていくためには、このスタンスの微調整はかなり重要な要素となります。
ムーブを繰り出す土台となる下半身が安定する体勢を決められている事
バランスが取れるスタンス位置が決まったら、次の2つの観点から下半身の体勢を作ります。
- 手や腕の負担が少なくなる体勢
- ムーブを起こしやすい体勢
それぞれ解説します。
手や腕の負担が少なくなる体勢
原則として次の2つの事が重要になります。
- 壁に出来るだけ重心(腰)を近づけること
- 出来るだけ重心を下げること
これらが出来ていると重心が低くなるので、全体のバランスが安定します。また、足へしっかりと体重が乗せられるので、手や腕の負担を減らすことが出来ます。ほとんどのケースでは測体で登っていく方が壁に近いポジションを取りやすいので省エネ登りになりますが、正対が適したケースも多々ありますので、状況に応じた対応が必要となります。
また、足技を使いこなすことで、手や腕の負担をかなり減らせる場合があります。例えばキョンやヒールフックなどです。
キョンは体勢が決まると壁に入り込むことができますし、ひねりを深くすれば腰の位置も自ずと壁に近づくので、ホールドを取るための力は最小限で済みます。デメリットとしては、ひねって決めた足を外す時にバランスが崩れたり、振られやすいので、その処理の仕方もムーブの一環としてイメージしておく必要があります。
ヒールフックは、重心の真下で乗り込んで固めることができる状況であれば、ほぼ全ての体重を下半身で支える事ができるので、手や腕の負担をかなり減らすことができます。また、柔軟性が必要になりますが、ヒールを高い位置にかけることが出来れば手の代わりになるレベルで、保持の大きな助けになります。
デメリットとしては、取ろうとしているホールドまで距離がある場合、ヒールでは距離を出しにくいのでつま先に乗せ換えてからムーブを起こす必要があります。その時、つま先に乗せ換えるのに力を使ってしまうことが多い印象です。
状況に応じて足を上手に使うことができれば、びっくりするぐらい楽に登れることがあります。思いついたムーブを積極的に試してみるとか、他のクライマーのムーブを真似してやってみるなど、コツコツと省エネムーブの引き出しを増やしていくことがクライミング力の向上に繋がります。
ムーブを起こしやすい体勢
バランスが安定して、手や腕に負担が少ない体勢が取れても、次のホールドへ向けて推進力が作りにくい状態だと登りのテンポも悪くなりますし、ホールドを取りにいくために体勢を作り直す必要がある場合、使いたくない力を使うことになります。
ムーブを起こしやすい体勢やホールディングの仕方は状況によって様々です。重心の位置、足を置く角度、ホールドの持ち方など、ちょっとした違いでそのムーブが成功するかどうかが決まります。いろいろと試行錯誤してバリエーションを増やしていく取り組みは軽視しされ勝ちですが、保持力を上げるとか持久力を上げる取り組みよりもすぐに効果がでるので、積極的に研究して引き出しを増やすことをお勧めします。
あと、クライミングで最もエネルギーを消費するのは、ホールドを取りにいく瞬間です。1つ1つのホールドを取りにいく動作において、効率よく推進力が起こせるかどうかは、限界以上のグレードを完登出来るかどうかに大きく影響します。
推進力をどのように作るのか? その推進力を作るためにはどんな体勢を取る必要があるのか?
完登を目指す上でこの視点はとても重要です。
まとめ
両足でとらえる・決める キネティックチェーン発動要点⑧
【両足で捉える・決める】は、キネティックチェーンを最大限に活用し、持久力も発揮する力強いムーブを起こすために重要な要素です。
インサイドフラッギングやアウトサイドフラッギングのように片足メインでバランスを取るムーブが有効な場面もありますが、片足では土台が安定していないため、それらが有効なのは、瞬発的なタイミング重視のムーブなど、継続した力強さを必要としない場面に限られます。
体全体を連動させた持久力のある力強いムーブを生み出すためには、土台となる両足がバランスの良い位置にあるスタンスをとらえ、ムーブを安定して起こすための体勢を事前に決めておくことが重要です。
両足でとらえる・決めることで期待できる効果
- 下半身が安定するため、ムーブが起こしやすい
- 推進力が作りやすい
- 体全体の連動により、保持力と持久力を最大限発揮することができる
両足でとらえる・決める ポイントまとめ
- 両足が適切なスタンス位置をとらえて、体全体のバランスが取れている事
要点:スタンス位置によるバランス感は、ミリ単位で大きく変わる。 - ムーブを繰り出す土台となる下半身が安定する体勢を決められている事
要点:重心(腰)は出来るだけ壁に近づけて下げること。また、手や腕の負担をなるべく下げて、推進力の作りやすさ・ムーブの起こしやすさも考慮した体勢を取る。
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