クライミングを続けていると、すぐに完登できない課題で頭打ちに合い、苦労の末、突破する経験を何度か繰り返しながら成長していくと思います。苦労しつつも最終的に完登出来てるうちはまだ良いのですが、真の限界グレードの課題に取り組み始めると、これ以上ない程にムーブを突き詰めて、何度も登り込んで動作を自動化しても、完登できない上に成長も感じられなくなる経験をする時が来ると思います。
こんな状況から、限界グレードの課題を突破する為には、保持力・持久力・心肺機能など、これらのフィジカル要素を向上させる取り組みは避けられません。
必要とするフィジカル能力を押し上げて行く為には、有効なトレーニング方法、高いモチベーションでの取り組み、必ず達成出来ると心の底から信じる事が重要です。
この記事では、私がフィジカルの限界値を上げる取り組みをする中で、絶対に外せないと考えている4つの事について書いていきます。
ライター:諦めない男 つるぎ
結論
クライミングにおけるフィジカルの眼界突破に取り組む中で、私が絶対に外せないと思うことは次の4つです。
- 目的の能力を上げる為の有効なトレーニングを行う事
- モチベーションが高い状態で継続できる事
- 自分で限界を作らないマインドを持っている事
- しっかり食べて、休息を十分に取る事
それぞれ詳しく書いていきます。
目的の能力を上げる為の有効なトレーニングを行っている事
保持力(最大筋力)・持久力・回復力・心肺機能など、目的とするフィジカルの能力を上げるために有効なトレーニング方法を選択して取り組むことが要点の1つです。
アプローチの方法はいろいろとありますが、基本的にはどのフィジカル要素を上げるトレーニングも、その時点での自分の限界ラインを認識して、少しづつ上げて行く事を目標に取り組みます。(少しづつしか上がりません)
クライミングにおけるフィジカル要素を効率よく向上させる為のトレーニング内容の要点は次の4つです。これらを組み合わせて目的に合わせたメニューを決めていきます。
- 登る時間(出力する時間)
- レストの時間とその方法
- セット数
- いろいろな課題で行う
- 1~4の基本の考え方を押さえた上で、登る時間を本数に変える
以下、要点についてそれぞれ詳しく書いていき、最後に私が実際に行っているトレーニング例を紹介します。
※ ここで紹介するトレーニングのほとんどは、登り込んでクライマーとしてのベースが出来ている事が前提になります。急に高い強度のトレーニングを始めると、故障の原因になりますので注意が必要です。
1. 登る時間 (出力する時間)
スポーツクライミングが目的の場合であれば、登る時間は5秒~最長でも6分の範囲内で設定すれば十分だと思います。その範囲内で目的に応じた時間を設定します。ざっくり説明すると、短時間ほどフルパワーに近い領域を鍛えられて、長時間ほど中強度の持久力が向上するイメージです。以下、全てに共通するルールと、設定する時間ごとの狙いをまとめていきます。
全てに共通するルール
- 設定した時間をギリギリ登り切れるかどうかの強度で登る
- 登っている間のレストは原則禁止
5秒~20秒を登る時間に設定する場合
感覚的な出力の目安は マックスパワー100%以上の運動になります。
(この強度が出せる課題選びが必要になります。)
最大筋力、心肺機能の向上を目指したい場合にこの範囲の時間を選択します。この時の強度の目安としては、呼吸が出来ない状態で登り続ける状態になります。火事場のクソ力を出すイメージです。登り込んでベースが出来ていないと怪我のリスクが高いトレーニングになります。
出力する時間が短すぎるとトレーニング効果が得られない場合がありますので、設定した時間をギリギリ頑張り切れる課題を登るようにして下さい。
30秒~1分をを登る時間に設定する場合
感覚的な出力の目安は 85~95%の運動になります。
(この強度が出せる課題選びが必要になります。)
高強度での持久力と心肺機能が向上します。最大酸素摂取量(1分間に取り込める酸素の最大量)の向上を目指した領域になります。有酸素運動の限界領域になりますので、呼吸が大きく乱れ、めちゃくちゃキツイ時間が長く続くイメージです。レストに入ると時間差で強烈なパンプが起こり、驚きと痛みに襲われます。このトレーニングも登り込んでベースが出来ていないと怪我のリスクが高いトレーニングになります。
取り組みを始めたばかりの頃は、体がすぐ思うように動かなくなると思いますので、少しづつならして行くようにして下さい。精神的ストレスもかなり高いため、続けることが核心かもしれません。
1分半~3分をを登る時間に設定する場合
感覚的な出力の目安は 75~85%の運動になります。
(この強度が出せる課題選びが必要になります。)
中強度~高強度領域での持久力、心肺機能が向上します。血液中の乳酸濃度が急激に上昇し始める運動強度になります。狙った強度でトレーニングできていれば呼吸も乱れてきます。レストしたくなる気持ちを押させて普段より少し速度を上げて登り続けるイメージです。
4分~6分をを登る時間に設定する場合
感覚的な出力の目安は 65~75%の運動になります。
(この強度が出せる課題選びが必要になります。)
中強度領域での持久力が向上し、脂肪燃焼効率も高い運動になります。私の場合、普段通りの速度でレストせずに登るイメージです。時間が長いので徐々にしんどくなっていきますが、上記のトレーニングに比べれば一番楽だと思います。ベース作りのトレーニングとしてもオススメです。
2. レストの時間とその方法
レスト時間
レストの時間は、登る時間と同じかその半分の時間に設定します。ただし、5秒~20秒や30秒~1分の高強度トレーニングの場合は特に、最初の内は長めに設定し、そこから、慣れや回復具合などの状況を見て徐々に減らしていくようにして下さい。
レスト時間は、セット数も含めたトレーニング全体を見て、設定した登る時間内にパフォーマンスを発揮出来ているかで設定するようにして下さい。例えば、4セットすると決めて取り組んでいるのに、3セット目と4セット目が全然登れない状況なのであれば、トレーニング効果はあまり期待できません。
全体を通して完璧にやり切れる場合は、強度を上げるためにレスト時間を短くする調整が必要ですが、まったく出来ない状況では、レスト時間を増やすか、強度を落とす調整が必要になります。
レストの方法
レストの方法とは、運動を止めて完全に停止した状態でレストするか、地面に降りず壁に張り付いた状態でレストするか、歩きまわってレストするかなど、レストしている時の状態を指しています。
トレーニング強度を上げるのであれば、壁の中でレストする、もう少し強度を上げたいのであれば、やさしめの課題を登る、など調整が可能です。
但し、その設定した内容がレストにならない場合は、効果的にフィジカルを伸ばすトレーニングとして成立しなくなりますので、メニューを考える場合にはこの点に注意が必要です。
セット数
セット数とは、「登る時間」と「レストの時間」、この組み合わせを1セットとして、そのトレーニングを何セット行うかの設定になります。登って休んで、登って休んで、これを繰り返すことでインターバルトレーニングの絶大な効果を得る事ができます。また、出し切って、小休止の後登ることで、回復力が飛躍的に高まります。
セット数を決める際には下記を目安にして下さい。
- 5~20秒登るトレーニング → 8セット
- 30~1分登るトレーニング → 4~6セット
- 1分半~3分登るトレーニング → 3~4セット
- 4分~6分登るトレーニング → 2~3セット
セット数がたくさんできれば、基本的にトレーニング効果は大きくなります。ただし、低い強度で長時間登るトレーニングを何セットもして、それを連日やり過ぎると、体が順応してしまい、高強度の出力が出来なくなってしまう事がありますので注意が必要です。
いろいろな課題で行う
クライミングでは、壁の形状、ホールドの向き・配置・保持し易い・保持しにくいなど、様々な状況に合わせて多種多様なムーブで対応する必要があります。同じ課題でばかり行っていると偏ったムーブでしか力が発揮できない事にもなりかねませんので、目指す方向性を明確にして、トレーニング課題を設定したいところです。
ただ、上記のトレーニングは、初めて取り組むクライマーにはかなり敷居が高いという現実もあると思います。まずは慣れる事を優先させて、最初は同じ課題で繰り返し行い、ある程度感覚がつかめて体が順応し始めてから、次のステップとして課題のバリエーションを増やしていく方が近道だと思っています。
1~4の基本の考え方を押さえた上で、登る時間を本数に変える
ロードバイクやRUNなどのトレーニングであれば、時間で管理したトレーニングでも問題ないと思いますが、クライミングの場合は時間で管理すると、ルートの途中の中途半端なところで終わる事になり、気持ち悪さが残ります。
ですので、私が実際にトレーニングを行う際は、リードクライミングのルート1本、又は、ルートの途中のキリの良いところまで登り切り、その後、ロワーダウンで降ろしてもらって、レストして、また登るという形で行っています。
狙った強度が出ていることが前提ですが、上記で示した時間ぐらいに落ち着いていれば効果は期待できますので、1本登り切るなどの状況で集中力が発揮できる方がトレーニング効果も高まりますし、状況に合わせて使い分けて貰えればと思います。
トレーニング例の紹介
下記の記事では、高強度のインターバルトレーニングをトップロープで行った方法をまとめた内容になっています。参考にご覧ください。
下記記事の内容は少し変則的ですが、私が初めて5.12aをオンサイトできるようになった時に、取り組んだ持久力を上げるトレーニングです。高さ16.5mあるルートを登って、クライムダウンして、別のルートを上まで行くという内容です。クライマーとしてのベースを作るトレーニングとしても有効です。興味あればご覧ください。
5秒~20秒登るトレーニングが適しているのは、人があまりいない時間帯のボルダージムになります。昔ボルダージムの強いスタッフに、どうすれば強くなれるか質問した事がありました。だいたい帰ってくる答えは、サーキットトレーニングでした。
その後、ロードバイクでのサブトレーニングを始めて、高強度インターバルトレーニングについて学んだり実践したりした事で、最大筋力を上げるトレーニングとして、サーキットトレーニングは最適解だったんだと理解しました。他にもキャンパシングボードなどでも、ここで紹介した時間管理を行って取り組めば同じ効果が期待できます。
モチベーションが高い状態で継続出来る事
フィジカルを押し上げていくためには、自身の持てる最高のパフォーマンスを発揮する必要があります。その為には、モチベーションが高いことが絶対条件になります。もっと登れるようになりたいという渇望と、それを成し遂げようとする意志、これらの強さがトレーニングの厳しい局面で力を与えてくれます。その結果、100%以上のパフォーマンスが発揮できる瞬間が来ると思っています。
私の場合、クライミング活動を締まりのあるものにする為、年に1度、ホームの施設で行われるコンペに出るようにしています。そのコンペに向けて調整したり、トレーニング方法などを試行錯誤してきました。
普段と違う雰囲気と緊張感の中での1発勝負、納得のいくパフォーマンスで持てる力を出し切れた事は一度もなく、自分の登りに対して反省の念が強く刻まれます。しかし、そこで刻まれた悔しい思いは、来年のコンペに向けた取り組みや自身のクライマーとして成長したい思いを強くし、限界突破の原動力になっています。
また、高いモチベーションを長期間継続させるためには、その取り組み方法やトレーニング内容が楽しい事がめちゃくちゃ大事だと思っています。トレーニングの狙いや本質を理解して、自分が楽しいと思える要素を取り入れたメニューやルールに変えていく工夫も大事だと思っています。
自分で限界を作らないマインドを持っている事
過去に経験した事がない方法でのトレーニングを始めると、トレーニングメニューがきつすぎて、何回やっても絶対こなせるようにならないとか、辛い思いをするだけでどうせ成長しないとか、そんなネガティブな思いを抱く場面もあると思います。
クライミングでは、クライマー自身のモチベーションの大きさが与える登りへの影響は、決して小さくありません。まして、自分の今の能力を超える取り組みにおいて、成長出来る!と信じて登ることで、1つ1つのトレーニングでその時の全力以上の力が発揮できるようになります。この刺激をどれだけ体に与えることが出来るかが、限界突破に繋がると思って活動しています。
厳しいメニューを続けていると、時には弱気になる事もあると思いますが、そんな時は気合の発声をお勧めします。雑念や迷いが振り払われて、次の1手に対して集中力が高まり、残った力を絞り出し易くなります。私の場合は「あー」と発声しています。(何がしっくりくるかは人によって違うみたいです)
しっかり食べて、休息を十分に取る事
減量した結果パフォーマンスが上がる経験を過去に何度かしました。その成功体験が頭に残っているせいで、ハードな課題やトレーニングに打ち込んでいる時期にも、もっと良いパフォーマンスを出そうと、食べる量を減そうとする意識が無意識に働いていると気付きました。
普段は感覚でご飯を盛って食べているのですが、クライミング活動中に力が出なくなるなど低血糖の症状が出たので、ご飯の量を計測してみると、思ったより少量しかご飯を食べていなかった事が解りました。
食べ過ぎは体重が増え過ぎる、感覚が鈍くなるなどしてパフォーマンスを落としますが、本気トライにせよトレーニングにせよ、クライミングの活動時間を通してパフォーマンスを最後まで発揮するためには、遅くとも活動の前日ぐらいから、その活動に必要な量の糖質を摂っておく必要があるという認識は持っておくべきです。クライミング活動の途中で、ヨレて力が出なくなる原因はもしかするとエネルギー不足かもしれません。
その他、強く意識しているタンパク質の摂取量については、体重(kg)の1.5~2.0倍(g)摂ることを続けています。(例えば、体重60kgであれば、1日90~120gのタンパク質を摂る) アスリートが筋肉を維持・向上するために必要な量と言われており、私も実際続けてみた結果、調子が良くなったと感じたのでこの内容を採用しています。
あとは、脂質は多く摂り過ぎない、ビタミン・ミネラルなども適当に摂取するというイメージで栄養を摂取しています。
フィジカルの限界を押し上げて行くためには、トレーニングで限界以上の刺激を入れて、必要な栄養をしっかり摂って、しっかりと休息をとる、この3つの工程は体を成長させるために不可欠です。更に言うと、実際にダメージを回復させて成長するのは、休息をとるフェーズになります。
私の場合、調子の良い時ほど、休息をおろそかにしてしまう傾向があり、その結果、痛めてしまったり、自律神経が崩れてしまったりしてきました。今後はこの経験に学んで、同じ失敗をしないよう活動していきたいと思っています。
まとめ
クライミングで、フィジカルの眼界突破を目指す為の4つの要点について書いてみました。
- 目的の能力を上げる為の有効なトレーニングを行う事
- モチベーションが高い状態で継続できる事
- 自分で限界を作らないマインドを持っている事
- しっかり食べて、休息を十分に取る事
私のフィジカルを向上させるためのトレーニング理論のベースは、サブトレーニングで取り組んだロードバイクで学びました。人体にどのような負荷をどれぐらいの時間かければ、目的とするフィジカル能力が向上するのか? 様々なスポーツに精通するそのトレーニング理論はほぼ完成されているようで、答えはすでに出ていました。最初は半信半疑でしたが、実際に実践してみてその効果を実感することが出来ました。
この理論をベースに水平展開し、自分なりの実験結果を元にクライミングに適した内容に修正を加えて、ここで紹介させてもらいました。保持力(最大筋力)や持久力、回復力は、ここで紹介したトレーニングを行うことが一番効率の良い方法だと思います。ただ、心肺機能を向上させるのはロードバイク(スポーツタイプの自転車)が最適解だと思っています。
心配機能が向上すれば、クライマーとしてのポテンシャルが向上します。私はこう言い切れる体験をする事ができました。長年伸び悩んだクライミングのパフォーマンスが劇的に向上したこの体験は、衝撃的なものでした。更なる成長はやり方次第でまだまだ可能だと信じて取り組みを続けています。
下記の記事はサブトレーニングで取り組んだロードバイクでの成果をまとめた内容です。
興味あればご覧ください。
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