ある程度登れるようになったクライマーであれば、状況に応じて重心をどのようにコントロールするか感覚的に理解していると思います。しかし、限界グレード以上の課題にトライしている状況で、ホールドやスタンスが悪すぎる、バランスが悪い、などの理由から体勢を崩してしまい、自ら難しいムーブにしてしまっていることが良くあります。
クライミングする際、重心の位置がまずいと、保持できるはずのホールドが止まらない、止まったとしても、無駄な力を使ってバランスを取ることになります。私のこれまでを振り返ると、感覚的な理解だけでは、追い込まれた局面や、保持するホールド・スタンスが悪い状況で、重心をどこへ移動させてどんなムーブで突破するのか、そのイメージが持てず、勝負すらできなかった悔しい思いを何度もしてきました。
この記事では、体の中心に向かって保持を利かせて、次のホールドを取りに行く場合の、重心コントロールの基本の考え方について書いていきます。頭の中を整理して理解しておくことで、追い込まれて迷った時でも、即座に目指すべきムーブが冷静に判断できるようになり、迷いがなくなって力を出し切る勝負が出来るようになると思います。
ライター:諦めない男 つるぎ
結論
体の中心に向かってホールドを利かせて、次のホールドを取りにいくムーブを起こす際、重心位置の基本の考え方は、ホールドを利かせている方向の直線上に重心を持って行くという事になります。この時、スタンスはバランスの取れる適切な位置を捉えられている事が前提となります。
ホールドを利かせている方向の直線上から重心が外れると、バランスが崩れ、その外れた度合に比例してバランスを保つために余分な力を使うことに繋がります。また、重心位置がベストの位置から外れていけばいくほど、体の構造的にも力を発揮しにくい状態になっていきます。
重心の位置は、私の場合へその奥と定義しています。ただし、真下から真上に向けたアンダー持ちの場合は、みぞおちより上に向かって利かせるイメージを持っています。
壁の傾斜角度別にそれぞれ書いていきます。
垂壁の場合
垂壁の場合、例えば、1時→7時方向に利かせる事が出来るホールドであれば、重心は7時の方向に持って行きます。3時→9時に向かって利かせる事が出来るホールドであれば、重心は9時の方向へ持って行くといった具合です。
加えて、保持手で利かせる方向が真横になるほど、捉えているスタンスホールドの使い方も変わってきます。保持するホールドとは逆の方向へフリクションで利かせてバランスを取ることで安定します。
保持手を横方向へ利かせる時の、スタンスホールドの利かせ方イメージ
バランスがきっちり取れていれば、完全に静止して次のホールドを取りに行くことが出来ます。ただし、6時→12時の方向に利かせるアンダーの場合は、重心よりも上の方へ向けて利かせる感じになります。
前傾壁の場合
前傾壁の場合、時計を斜めに傾けた状態をイメージして、同じように1時→7時方向に利かせる事が出来るホールドであれば、重心は7時の方向に持って行くことでホールドが一番利く状態で保持することが出来ます。
前傾壁では、上記の【垂壁の場合】で取り上げた、3時→9時に利かせるホールドのように、保持手を真横に利かせ、スタンスホールドは逆方向へ利かせるバランスの取り方に加えて、壁が前傾しているので、重力によって保持したホールドの鉛直方向に重心が引っ張られる力が働きます。
保持しているホールドが深くインカットされた形状であれば、重心が壁から離れた状態でも保持できますが、インカットされていないホールドで保持する場合は、重心を壁に出来るだけ近づけておかなければ、ホールドを利かせる事ができず、その場に留まることすらできなくなります。
体幹や身体張力、ソールのフリクションなどを駆使して壁に重心を近づける体力と技術が必要になります。
スラブの場合
スラブの場合は、上記で書いてきた90度以上の壁とは勝手が異なります。どれだけスタンスにしっかり乗り込んで登っていけるかが一番重要なポイントとなります。足にしっかり体重を落として乗り込めている状況では重心位置を大きく左右に振って登っていくということはありません。そのような場面では、保持手は微妙なバランスを取ったり、ほんの少し支えているという程度でしか使いません。
ただ、スタンスを高く上げていく場面などで保持手をしっかりと利かせて動作を起こす場合の基本は同じになります。明らかな違いとしては、垂壁や前傾壁では測体登りも多用しますが、スラブでは正対登りが基本となる点です。
まとめ
特にリードクライミングでは、出来るだけ省エネで効率よく楽に登って行くことが、完登するためにとても重要になってきます。バランスがちゃんと取れていれば、無駄な力を使うことはありませんが、登りが雑で、ムーブを起す度にバランスが崩れていれば、その都度、本来使わなく良い力を使い続けることに繋がります。
高グレードを登るクライマーを見て、パワーを求める気持ちもわからなくはないですが、その前にすべきことが沢山あると思っています。バランスの取り方もその1つです。
なんとなく感覚だけで登っているのであれば、ホールドを利かせている方向の直線上に重心を持って行くということを是非頭の片隅に置いて登って貰えればと思います。
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