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両足が切れる状況に備えて理解しておきたい事

クライミングをしていると、両足がスタンスから離れてしまう場面があります。(クライミングではこの状態を両足が切れると言います。)両足を切らないと次のホールドに届かない設定の課題や、切らなくても届くところでも委縮して体が伸び切れず、両足がスタンスから離れてしまう場面など、状況はいろいろあると思います。

両足が切れると、保持しているホールドの位置と重心の位置関係によって、体の振られる方向や力の大きさが決まります。そして、体が振られ切るまでにスタンスを捉えないと、保持手に負荷が集中して、それを押さえ込むための体力を使ってしまったり、耐えきれずにフォールしてしまうケースも多いです。

この記事では、両足が切れた時の準備として、頭の中を整理して、理解しておきたい事をまとめていきます。物理的に当たり前の事ですが、現場の感覚のみで登っているクライマーにとっては、原理原則を再度確認することで忘れていた、見逃していたなどの気付きがあると思います。

ライター:諦めない男 つるぎ

 

結論

両足が切れるという状況には前提として次の2パターンがあります。

  • 切れることを前提でムーブを起こしている時
  • 切れると思ってなかったのに切れてしまった時

どちらのパターンでも両足が切れた後にやるべき事は同じですが、心の準備が出来ていない状態で切れた場合、バランスの立て直し動作に移るまでに時間がかかるため、体力を余計に使う事になり易いです。

両足が切れた際の対処法を考えるために理解しておきたい内容は次の通りです。

  • 支持手の下へ向かって、重心(腰)が移動する力が働く。
  • 保持している腕の長さが一定の場合は、弧を描くように重心が移動する。
  • 重心が振り切れたところで、全体重に加えて振られの力が支持手にかかる。
  • 支持手と肩の距離が近い状態で足が切れた場合、それに比例して振られの力と振られる幅は小さくなる。
  • 保持手の真下に重心(腰)がある場合、振られの力は働かない。
  • 支持手から、重心(腰)が左右へ離れる程、振られの力、振られる幅は大きくなっていく。
  • 振られる力や振られる幅の大きさは、クライマーの体重に比例する。

支持手とは?
保持している手のうち、軸となる手の事を支持手と書いています。両足が切れて手で体重を支える状況になった場合、支持手を中心として弧を描くように重心が移動します。

 

これらの事を前提に、足を切る、切れる可能性がある場面では、どのように振られを止めて、バランスを安定させるのか、予めイメージを持って備えていれば、両足が切れてしまった場合でもすぐにリカバリー動作に移ることができて、体力のロスを最低限に抑えることが出来ます。

以上の事を踏まえて、両足が切れた時に備えて留意しておくべき点について書いていきます。

両足が切れる場面での対処法

両足が切れて、大きなダメージを負わないように対処する際の要点は次の通りです。

  • 出来るだけ早くスタンスを捉えて、手にかかっている負荷を分散する。
  • 重心(腰)が動く力を利用した動作で対処する。
  • 重心の軌道をイメージして、大きな負荷がかかる最悪の瞬間までになんとかする。
  • 振られが最小限になるようにムーブを起こす。

それぞれ詳しく書いていきます。

 

出来るだけ早くスタンスを捉えて、手にかかっている負荷を分散する。

両足が切れて、手で大半の体重を支えている状況では、一刻も早くスタンスを捉えて手にかかっている負荷を分散させる必要があります。そのためには、事前に使えそうなスタンスを把握しておくことです。

両足が切れた時、すぐ捉えることが出来そうなスタンスの位置と、どのような足の置き方が良いかそのイメージを持っている事がポイントになります。両足が切れて、ぶら下りながらスタンスを探すのか、切れた瞬間、事前に把握しておいたスタンスに向かって即動作を起こすのとでは、受けるダメージがかなり変わってきます。

 

重心(腰)が動く力を利用した動作で対処する。

腰が引けたようなムーブを起こした際に両足が切れるパターンでは使えませんが、思い切って伸びあがった結果足が切れた場面では、両足が切れた瞬間、重心は上へ向かって移動している状態である事が多いです。

僅かな時間ですが、この時、保持している手への負担はほとんどかかっていません。上へ向かった重心が頭打ちにあって、下に向かって移動を始めた頃から支持手への負担が徐々に大きくなっていくイメージです。

重心が上に移動する力が働いている間は、対処動作がしやすいチャンスタイムと認識して、その間にスタンスを捉えてバランスを取ってしまうことが出来れば、ダメージはほとんど受けません。

更に、起こしたムーブの流れから、左右どちらか、動かしやすい、上げやすい足があると思います。その足で素早く体重を落とせるスタンスを捉える事が重要です。

  

重心の軌道をイメージして、大きな負荷がかかる最悪の瞬間までになんとかする。

両足が切れて体重が支持手にかかっている状態では、その支持手を中心点として、振り子のように半円を描くように重心が移動します。支持手よりも左に重心があれば、右へ向かって弧を描きます。

この場合であれば、右へ振り切って反動に変る瞬間には、自分の体重に振られで発生した力も加わります。それまでにスタンスを捉えて、バランスを取って、静止する事が出来なければ、その大きな力に耐える必要が出てきます。

更に、大きく振られた場合、保持しているホールドが振られ切るまでの間、ずっと利かせ易い形状とも限りません。また、大ガバであっても、大きく振られた場合は押さえづらい状況になることも多々あります。

振られを止める動作は、いかにスタンスをバランスが安定するところに置くかが肝ですが、その前に支持手とは逆の手で押さえ込んだり、つっぱったりして振られを止める意識も重要です。

いろいろな方法を駆使して、なんとか振り切るまでに、その振られを止める対処動作をしたいところです。
 

振られが最小限になるようにムーブを起こす。

振られを小さくする事が出来れば、保持手にかかる負荷を減らす事ができます。この事を考える際に押さえておきたいポイントは次の2つになります。

  • 保持手と重心の距離を短くする事
  • 重心の位置を出来るだけ保持手の真下に寄せておく事

それぞれ書いていきます。

 

保持手と重心の距離を短くする事

保持手と重心の距離を短くするには腕を曲げる必要があります。クライミングでは出来るだけ腕を伸ばした登りが良いとされていますが、両足が切れた際に振られを小さくするには支点となる保持手から重心(腰)までの距離が短ければ、それに比例して振られの力や距離も小さくなります。

また、全体重を腕だけで受けるような場面では、肘を曲げておかないと、大きな力を逃がす事が出来ずまともにダメージを受けてしまい、肩・肘・手首・指などの故障の原因になります。

ですので、振られを押さえ込むためには出来れば肘を90度ぐらいに曲げておくことで、胸・背中・体幹などの筋肉も連動させる事ができますので、大きな力を発揮する事が出来ます。

下は過去に書いた関連記事になります。興味のある方はご覧ください。

 

重心の位置を出来るだけ保持手の真下に寄せておく事

重心の位置が保持手の真下にあれば、両足が切れたとしても振られの力は働きません。ですので、次のホールドを保持して両足が切れた時に重心(腰)の位置がその保持したホールドの真下に出来るだけ近づく事が出来ていれば、その分、振られの力は小さくなります。

いろいろな状況があると思いますが、例えば、今いる位置から左上のホールドへ向かって斜めに直線的なランジするのではなくて、手数・足数を増やしてでも出来るだけ重心を左の方に移してからランジムーブを起こすとか、それが無理であれば、左足に重心をしっかり乗せてから飛ぶなど、状況の中で、最大限左へ重心を移してから飛び出すイメージが重要です。

良くある失敗としては、斜め方向へ飛び出す事で、横方向への力が大きくなりすぎて、自ら振られを大きくしてしまい、ホールドが最後まで保持し切れずにフォールしてしまうパターンです。

両足でコントロールできなくなる場面でにおいて、出力する方向はとても重要です。少しの角度の違いが成功と失敗を分けます。

 

まとめ

思いもよらない場面で両足が切れると、ちょっとしたパニック状態になります。そんな状況でもあらかじめ頭の整理が出来ていれば、瞬時に何をするべきかが解るようになってきます。捉えるべきスタンスの位置は事前に確認しておかないと難しいのですが・・・。

両足が切れることが得意なクライマーは少ないと思いますが、クライミングをしているとそんな場面は訪れますし、準備が出来ていないと、何をしたら良いのかわからず、何もできずにそこでフォールするだけになってしまいます。

この記事で紹介した、両足が切れた際の対処法を考えるために理解しておきたい内容は次の通りです。

  • 支持手の下へ向かって、重心(腰)が移動する力が働く。
  • 持している腕の長さが一定の場合は、弧を描くように重心が移動する。
  • 重心が振り切れたところで、全体重に加えて振られの力が支持手にかかる。
  • 支持手と肩の距離が近い状態で足が切れた場合、それに比例して振られの力と振られる幅は小さくなる。
  • 保持手の真下に重心(腰)がある場合、振られの力は働かない。
  • 支持手から、重心(腰)が左右へ離れる程、振られの力、振られる幅は大きくなっていく。
  • 振られる力や振られる幅の大きさは、クライマーの体重に比例する。

 

これらを踏まえて、大きなダメージを負わないように対処する際の要点として次の4つを上げました。

  • 出来るだけ早くスタンスを捉えて、手にかかっている負荷を分散する。
  • 重心(腰)が動く力を利用した動作で対処する。
  • 重心の軌道をイメージして、大きな負荷がかかる最悪の瞬間までになんとかする。
  • 振られが最小限になるようにムーブを起こす。

やるべき事が頭で整理できていない状態では、いつまでも苦手なままになってしまいます。この記事を読む事で、両足が切れた時の対処法について考えるきっかけになればと思います。

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