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限界グレードを突破するための熟考が、クライマーを進化させる理由

少し背伸びして、難しいルートのレッドポイントを目指した取り組みを始めると、強度と持久力のどちらか、又はその両方が不足していて、完登出来る気がまったくしないなんて事はよくあります。

クライミングを始めて数年間はあまり考える事なく、取り組んでいるルートを何度も登り込んでムーブを自動化していけば、だんだんと繋げられるようになっていって完登出来たという経験はたくさんしてきました。しかし、ある程度登れるようになって、真の限界グレードに挑戦し始めると、進化や成長がなければ突破することは出来ません。

この記事では、筋力を上げて突破する方法ではなく、それまでとは違う発想の取り組みや登り方が出来るようなって、特に大きな成長を実感した内容について書いていきます。

ライター:諦めない男 つるぎ

結論

クライミング力を上げるために、地道に登り込むことはもちろん有効です。しかし、それだけでは超えられない壁が出てくると思います。少なとくも私はそうでした。ほとんどのクライマーは身体操作や楽に登る技術について、もっともっと深く考えて取り組んでいくことで、限界グレードを上げることが出来ると思っています。

私が限界グレードを上げるために考え続けた事、取り組んだ事について書いていきます。

私の成長に大きく貢献した取り組み

以前は、核心部を出来るだけ楽に突破するムーブや、楽にレスト出来る方法だけを考えていました。それ以外はあまり深く考えず、とにかく登り込んでムーブを自動化し、グレードを上げて行く取り組み方をしていました。

クライミングを始めて数年はその繰り返しで成長出来ていましたが、ある時を境に成長が止まってしまいました。その現状を打開するための突破口を探し続けた結果、最大のパフォーマンスを発揮するために必要な事や、更に登れるようになるために身に付けるべきクライミング技術について考え続けました。

また、自分よりも強いクライマーの登りを観察したり、取り組んでいることを聞いたりして、自分のやっていないことを見つけたら些細なことでもマネて実践してみたり、取り組んでみました。そして、その登り方や取り組みが実際の登りにどのようにプラスに働くのかを体験した上で考え続けました。

これらの取り組みからたくさんの成長・進化の種を得ることができました。そして、最初は点だったものがだんだん線として繋がりだして、取り組むべきテーマや進むべき方向性が見えてきました。その結果、身体操作や、それまでとは違う発想で楽に登るための技術をテーマにして取り組むようになっていきました。

最大のパフォーマンスを発揮するためには、小さな筋肉や一部の筋肉だけに負荷がかかる運動は極力避けて、大きくて持久力のある筋肉を複数連動させ、体全体を活かした運動になるような身体操作が出来る事が最も重要だとの考えに至りました。

いろいろと紹介してますが、その中でも私が大きな効果を実感した取り組みは、

  • 肩甲骨の柔軟性
  • 姿勢
  • 力を発揮するための身体操作
  • 心肺機能の向上
  • 推進力を活かすこと、動きを止めないこと

などです。

それぞれ、解説していきます。

肩甲骨の柔軟性

腕は肩甲骨から操作するものだという認識すら持っていなかった頃は、肩や指に負荷を集中させてしまって、定期的に痛めていました。特に限界グレードを超えるようなルートや課題に打ち込んだ時は、肩や指先で頑張るしかないとの間違った思い込みから無理をして痛めていました。

肩甲骨から動かして腕を操作することができれば、体幹から胸筋・背筋などを連動させて大きな力や持久力を発揮できるようになります。そのためには、肩甲骨が自由に動く柔軟性が必要になります。そのために、本気で取り組んでみようと思ったのが立甲(りっこう)でした。

立甲(りっこう)とは、
肩甲骨を立てる動きのことを指します。肩甲骨まわりの柔軟性がある人が四つん這いになって立甲すると、肩甲骨を羽のように立てることができます。初めて見た時はびっくりすると思います。現代人は生活習慣から固まってしまって動かなくなり勝ちですが、本来、肩甲骨は自由に動くものだそうです。


私もこの取り組みを始めた時点では、肩甲骨周りの柔軟性はありませんでした。立甲の姿勢をとっても、ほとんど肩甲骨が立たない状況でした。立甲に毎日取り組むようになり、少しづつ少しづつ柔軟性が上がっていき、3ヶ月後には驚くほど動くようになりました。

ただ、肩甲骨の柔軟性が上がっても、その柔軟性を活かした使い方ができないと効果は発揮されません。肩から先が腕だという感覚で、長い期間をかけて身に付いた体の使い方は、修正するにかなり時間がかかりました。 私の場合、3年程かかってやっと効果を実感するようになったというのが実状です。この効果は明らかな違いを感じられるものですので、クライミングで更に登れるようになりたいのであれば、絶対に取り組むべきだと思います。

もっと詳しくは下記の記事で書いていますので、興味があればご覧ください。

 

姿勢

クライミングを始めて約8年間は、姿勢を意識することなく成長できていました。その登り方での限界グレードまでたどり着き、成長がまったく感じられない状況に追い込まれて、何が足りないのかを熟考した結果、はじめてクライミングで姿勢を意識するようになりました。

どんなスポーツでも姿勢やフォームが重要だと教えられます。私が過去に習っていた剣道でも構えた時の姿勢について何度も何度も修正された事、その積み重ねで知らず知らずのうちに身に付いていった事を思い出しました。

クライミングのサブトレーニングとしてはじめていたロードバイクでは、ロングライドをする際、長時間、前傾姿勢で乗ることになるため、間違った姿勢で乗っていると、痛みや不調がアラームとなって教えてくれます。そのアラームが無くなるように修正しながら乗り込んだことで、クライミングで登る時に身体能力を発揮できる姿勢の感覚をつかめるようになったと感じています。

クライミングにおいて身体の力を最大限発揮できる姿勢がとれまでにはかなり時間がかかりました。これまでの生活習慣病ともいえる姿勢を修正することは本当に大変でしたが、クライミングのみならず、日常生活においても姿勢を維持する要点がつかめたことで、首・肩・腰痛などが改善したので本当に良かったと感じています。

もっと詳しくは下記の記事で書いていますので、興味があればご覧ください。

 

力を発揮するための身体操作

私の通う施設には、身体能力を有効に活用するために古武術などを勉強して、クライミングに活かす取り組みをされてきた、私の大師匠とも呼べる御年87歳のスーパーおじいちゃんクライマー&ルートセッターがおられます。その方は60才過ぎてからフリークライミングを始めて、60台後半で外岩の5.13を何本も登られている凄い方です。

外見は本当に普通のおじいちゃんという感じで、知らない人が街ですれ違っても、クライミングの達人だとはまったく思えない風貌です。その方が取り組まれてきた話をいろいろと伺ううちに、身体の使い方の奥深さを意識するようになっていました。

ムーブの最適化やより楽なレストを考えて、あとは登り込むだけの活動で頭打ちにあった時、身体能力を最大限発揮するための取り組みも始めるべきだと考え、どのような身体の使い方が登る際に有効なのか、力を発揮できるのかについて自分なりに試行錯誤していきました。

その結果、私が身体能力を発揮しながら登るために抑えるべき8つの要点があるとわかってきました。

  1. 支持手にへそを向ける
  2. 小指側で保持する
  3. 体幹へ連動する親指の使い方
  4. 肘を曲げて保持する
  5. 肘とへそを近づける
  6. 肩を下げる
  7. 姿勢を維持する
  8. 両足でとらえる・決める

これらは、一部の筋肉や関節だけで運動するのではなく、身体全体の筋肉や関節を連動させた運動をするために私が意識して取り組んだ結果、大きな力や持久力を発揮できるようになった内容です。また、負荷や疲労も分散されるので肩や指を痛めることが無くなったり、疲労回復の速さにも大きく貢献していると感じています。そして、この概念はスポーツ科学的に、キネティックチェーン(運動連鎖)と呼ばれているようです。

他にもキネティックチェーンを活用するための動作はあると思いますが、私が重要だと感じて、特に高強度で登る時に強く意識している事については、下記のキネティックチェーンのまとめ記事で書いています。興味のある方はご覧ください。

 

心肺機能の向上

強いクライマーになることを目標に登り込んできましたが、正直なところ心肺機能を向上させるという意識はまったくありませんでした。昔からマラソンなどの持久系の運動は好きではなかったので余計に頭にありませんでした。

限界グレードを上げられなくなり、どうすれば限界突破できるのかのヒントを求めて先輩クライマーに尋ねたところ、日々ランニングや通勤で自転車に取り組んでいると教えてくれました。その中で自分がやってみようと思えたロードバイクをチョイスして、とりあえず取り組んでみようと思ったのが始まりでした。

自転車競技はヨーロッパなどでとても盛んに行われており、そのトレーニング方法なども確立されているため、その理論を学び・体感して効果も実感することができました。この経験は自分にとってともてプラスになりました。これをクライミングに水平展開することで、もっと成長できると確信しました。

特に持久力を鍛えるには、心肺機能の向上は必須で、その中でも特に重要なVO2MAX(最大酸素摂取量)を上げることが高強度での持久力に繋がるとわかりました。

VO2MAX(最大酸素摂取量)とは、
1分間に体内に取り込める最大の酸素量の事です。VO2MAX(ブイオーツーマックス)とも表記されます。取り込める量が多くなるとクライミング時の高強度に通用する持久力・回復力・保持力のアップに繋がります。

また、ロードバイクでのトレーニングは、心肺機能を向上させるための最適解の1つだったこともあり、クライミングで大きく成長できた要因の1つとなりました。

詳しくは下記の記事で書いていますので、興味のある方はご覧ください。

推進力を活かすこと、動きをとめないこと

クライミングを始めて周りの人にいろいろと教えてもらう中で、1手1手取るごとにバランスを取って、安定した状態で次のホールドを取りにいくというのが自然に身に付いていました。これは確かに基本ではあると思います。

しかし、高難度のルートや課題では逆に足をひっぱる要素だと思っています。そんな登り方ができるのは簡単なルートだけで、難しいルートの核心部分やボルダー課題では、動きの中でバランスを取って、推進力を活かして出来るだけ早く通過することが重要となるからです。

一度完全に止まってしまうということは、動いて発生している推進力を止めるエネルギーのロス、そこから動き出すエネルギーのロスが生まれますし、伸びたら縮む、縮んだら伸びるという筋肉の特性を有効に使えない登り方となってしまいます。

特にギリギリの状況においては、このことを理解してムーブを起こしている場合とそうでない場合では成功率に大きく差がでる内容となります。

また、今ある推進力をどの方向に、どのように活かすのか?、一度止まったところからどのように推進力を起こすのか?このような思考は、オブザベーションや実際に登りながらムーブを選択して判断する場面で、一緒に考える必要があります。

私が高難度のルートや課題を登る時は、ムーブを決めると同時に、どのように推進力を作るか、活かすのかという事ばかり考えて登っています。完登するためにはそれほど重要な要素だと思っています。

詳しくは下記の記事で書いていますので、参考にして下さい。

 

まとめ

真の限界グレードを超えるということは、今の自分の能力では完登できない課題を、進化・成長することで超えていくことです。今の自分に不足している要素を向上させるために何に取り組めば良いのか? 自分自身を育てるコーチとしての腕の見せ所です。プレイヤーとして完登する喜び・楽しみもありますが、この取り組みもうまくいけばとても楽しいです。

私は初見で触ってみて、出来ると感じる課題ばかりに取り組んでいては成長はできないという感覚で活動しています。ですので、出来ると思いながらのレッドポイントトライばかり続けていると、このままでは成長できないと焦る気持ちがでてきます。

初心を忘れず、本当にこんなルートや課題が完登出来るのか?と心底感じる難題にチャレンジして突破する活動を続けて行きたいと思っています。全身全霊をかけて挑戦できる課題がある時が一番楽しい!と私は感じています。

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