モチベーションが高まる限界グレード以上の課題にトライし始めると、長期間、他の課題には目もくれずトライし続けることがあると思います。
私も約1年半・200回近くトライして結局レッドポイントできなかったという苦い経験があります。
完登できる気がまったくしない状態から取り組みがスタートするので、完登できれば、それは目に見えた成長ですし、苦労の大きさに比例して達成感を感じることができます。
完登した後、まったく出来なかったことが出来るようになったのだからと、これまでの自分とは違う感覚を感じられることに期待を持って、久しぶりに別の課題を登ってみると、オンサイトトライの対応力や持久力が明らかに落ちていると感じて、がっかりする経験を何度もしてきました。そして、この経験を経て、何が起こっているのか、少しづつ理解できるようになってきました。
この記事では、1つの限界グレード以上の課題に打ち込むメリットとデメリットについて書いていきます。1点突破で打ち込むべきか、それとも平行して他のメニューにも取り組むべきか、判断する際の参考にしてもらえればと思います。
ライター:諦めない男 つるぎ
結論
1つの限界グレード以上の課題に長期間打ち込んだ場合のメリットとデメリットは次の通りです。
メリット
- 完登するために不足している能力が高まったり、理解が深まること
- 自動化で自分の限界を超えたパフォーマンスが発揮できること
- レストの技術が上がり、引き出しが増えること
- 完登できれば、自己成長感と達成感を得て、自信につながること
デメリット
- その課題では使わない筋力や柔軟性が低下すること
- 同じところに慢性的な疲労がたまり、故障しやすいこと
- オンサイト能力が著しく低下すること
- フラストレーションがたまり、モチベーションが低下しやすいこと
それぞれ詳しく書いていきます。
1つの課題に長期間打ち込む メリット
完登するために不足している能力が高まったり、理解が深まること
限界グレード以上の課題に打ち込んでいると、自分の限界を超えるパフォーマンスを発揮しないと登れない要素がでてきます。
それに対抗するために、例えば核心部では、最適なムーブをイメージして、重心をどのように利用するのか、推進力をどうやって作るのか、ホールドの保持のしかた、スタンス位置のミリ単位の微調整、体の使い方など、とことん考えて、試して、いちばん力が発揮できるバランスや動作を作り上げていきます。
これまで体験したことのないムーブを要求される場面では、使ってなかった柔軟性を求められるかもしれませんし、神経回路がつながらず、体を思ったようにコントロールできない場合は、その動作に慣れるまで少し時間がかかるかもしれません。これまでよくしているムーブでも、わずかな改善を加えることで驚くほどの効果を実感することもあります。
限界ギリギリの状況では、洗練されたムーブができないと壁からはじかれてしまいます。だからこそ、ムーブをマスターするのにギリギリの状況は最適だといえます。逆に、持ちやすいホールド、安心感のあるスタンスでは、他の要素でカバーできてしまうので、洗練されたムーブを覚えることは難しいです。
また、フィジカル不足が原因の場合は、その核心部を何度も練習して、その強度を体に慣らしていったり、最大筋力・持久力・柔軟性などの能力を上げたりして解決するしかありません。
完登できたころには、それまでの自分の限界を超える何かを習得できた状態になっています。
自動化で自分の限界を超えたパフォーマンスが発揮できること
何度も繰り返して同じ課題を登ることで、体がその動きを覚えます。同じムーブや動作で登り続けることで力の入れどころ、抜きどころがわかってきて、だんだんと楽に登れるようになっていきます。この状態をムーブの自動化と呼んでいます。
自動化した後、かなりの回数を登りこんで、もうこれ以上楽に登れないと感じるまでに至っても、完登できない状況が続くのであれば、フィジカルを高めるか、もっと楽なムーブやレスト方法を見つけるしかありません。
これ以上の楽なムーブはないと思える流れを作り込んで、反復の力でパフォーマンスを最大限高めた自分の登りは、オンサイトトライで少しでも近づけたい理想の登りでもあります。
レスト技術が上がり、引き出しが増えること
繰り返し登っていると、力が抜けるポイントがわかってきます。核心部を突破するための力がでないのであれば、うまくレストしてもっと体力を回復できるように考えると思います。
スタンスにできるかぎり体重を乗せて、片手の保持でも脱力感をもってバランスが取ることができるように重心を配置することが基本ですが、更にここから、より楽なレストを追求する取り組みをすることで、状況に応じたレストの引き出しを増やすことができます。
レストは、保持する指、測体か正体か、重心位置、壁との距離、ヒールフック、キョン、丘持ち、ガストン、バランスの取り方、スタンス位置で斜度を緩くするなど、などわずかな工夫で劇的に楽になったりします。この取り組みをモチベーション高く行えるのは、レッドポイントを目指して何度も登り込む時だけだと思います。
それから、どこをレストするのかというのも大事なポイントで、指や腕を休めることが主な目的になっていることが多いと思いますが、核心部を通過できない理由が、実は体幹の疲労だったというパターンもあります。
体を鉛直方向から傾けて力を発揮している時間が長いほど、体幹を使ったムーブを起こしていることになりますので、疲れを感じ取ったら体幹を休める意識も大事です。
レアケースですが、下半身を酷使した場合は、レスト時に腕を振って回復を促すように、足も脱力して振っておくことが有効です。クライミングは体全体を使って登ってるので、腕以外の疲れている部分を感じ取って休ませる意識が大切です。
完登できれば、自己成長感と達成感を得て、自信につながること
クライミングをやったことのある人なら、完登できた時の達成感は誰もが感じたことがあると思うので説明不要だと思います。出来なかった事が出来るようになった事実と、苦労した度合に比例して得られる達成感は、自信になります。
新たに次の挑戦に前向きな気持ちになったり、これまでなら怖がってテンションをかけていた1手にでも、出来ると信じて勇気を出したムーブが起こせるようになったりします。
ただ、1つの難しい課題に取り組んで完登できたからといって、成長がすぐ実感できるほど登れるようにならないのが現実ですが、出来なかった課題を完登する過程で学んだこと、成長したフィジカル要素は間違いなくあります。それを蓄積し続けることで、ある程度のレベルまでは限界グレードを上げて成長を続けることができます。
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1つの課題に長期間打ち込む デメリット
その課題では使わない筋力や柔軟性が低下すること
1つの課題を登り続けるということは、その課題で使う動作に関わる筋肉や柔軟性しか使わないということになります。当然ですが、その期間が長ければ長いほど、その他の動作で使う体力や柔軟性は少しづつ低下していくことになります。
長期間取り組んでいた課題を苦労の末に完登した後、成長した自分の登りに期待して別のルートにトライしてみると、調子よく登れない結果になる経験は私自身何度もしてきました。
特に、クライミングのコンペに出る前などは1つのルートに固執し過ぎると対応できない体になってしまいますので、注意が必要です。
同じところに慢性的な疲労がたまり、故障しやすいこと
限界グレード以上のルートでは、最大筋力を発揮する場面がでてきます。だいたいそれは核心部の数カ所だと思います。自分にとってのフルパワーを出すので、そのムーブを起こす際に、体のいろいろな場所に大きな負荷がかかります。
特定の箇所に疲労が溜まりやすい状況もそうですし、登れない状況が続くと、なんとか突破しようと崩れた動作で無理矢理ちからを出そうとしてしまうケースも多いため、慢性的に痛みが出始めたり、故障してしまうこともよくあります。
同じ課題にひたすら打ち込む時は、パフォーマンスが落ちたと思ったらその時点で止めることや、回復の時間をしっかりととりながら、体の状態をみて取り組んで行くことが重要です。
怪我をしてしまえば、当然その課題に取り組むことはできませんし、しばらく休まざるを得なくなり、継続した成長ができないことになってしまいます。
オンサイト能力が著しく低下すること
長期間同じ課題だけを登っていると、ムーブの動きは自動化して完全に覚えてしまいます。ホールドやスタンスもどのように保持したり、捉えたりすれば良いのかイメージを持った状態でのクライミングをし続けることになります。
このような取り組みでは、どんなムーブが正解なのか?ホールドはどこが持てるのか?思い切ってホールドに手を出して止まるのか?など、未知のことに対して考えたり、決断する要素がなく、全て解ったホールドに対して決まった動きを出来るだけ楽にこなして、完登できるかどうかという取り組みになりますので、決断力と勇気が求められるオンサイト能力が著しく低下してしまいます。
フラストレーションがたまり、モチベーションが低下しやすいこと
限界グレード以上の課題では、あと少し・ラスト1手が止まらない、そんな状況がかなり長く続くことがよくあります。進歩の感触も感じられないまま、長期間その状態が続くと気分が重くなって自分には無理なんじゃないかと、モチベーションを維持することが難しくなってきます。
モチベーションが低下した状態では良い成果につながることはありませんし、そんな時は、その課題の取り組みを一旦保留にするなどの英断も必要だと思います。
まとめ
1つの限界グレード以上の課題に長期間打ち込んだ場合のメリットとデメリットは次の通りです。
メリット
- 完登するために不足している能力が高まったり、理解が深まること
- 自動化で自分の限界を超えたパフォーマンスが発揮できること
- レストの技術が上がり、引き出しが増えること
- 完登できれば、自己成長感と達成感を得て、自信につながること
デメリット
- その課題では使わない筋力や柔軟性が低下すること
- 同じところに慢性的な疲労がたまり、故障しやすいこと
- オンサイト能力が著しく低下すること
- フラストレーションがたまり、モチベーションが低下しやすいこと
私自信、長期間こだわり続けた結果、故障してしまったこともありましたし、結局登れずで消滅してしまったルートもありました。進歩している感覚が長期間止まった時は、今のやり方では完登に近づけていないことを認めて、別の方法を模索する気持ちの切り替えも重要だと考えるようになりました。
自信がクライミングに求めることを第一にして、後悔のない活動にしていきたいものです。
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